これは不思議な本だ。まずタイトルが変わっている。その意味は、著者の1人チャーリー・ジョーンズによる冒頭のプロローグを読まなくてはわからない。 テレビのスポーツキャスターであるジョーンズは、過去のオリンピックで陸上や水泳など華やかな競技を担当してきた。ところが96年のアトランタ五輪で命じられたのは、ボート、カヌー、カヤックといった地味な競技の中継だった。落胆しながらボート選手の取材を始めた彼は、選手たちが自分の力のおよばない天候や不測の事態を「それはボートの外のこと」と表現することに気づく。彼はそこから人生のヒントを発見する。つまり、自分の力でどうしようもないことには悩まない、ということだ。 ジョーンズは仕事の割り振りは「ボートの外のこと」とみなし、自分ができることに集中することにした。するとアトランタで、それまで以上に充実した経験ができた。 このエピソードを皮切りに、実業家や学者、作家、スポーツ選手など55人がそれぞれの人生の「ボートの外」を語る。それは難病や障害であったり、過酷な捕虜生活であったり、ビジネス環境の変化、挫折、家族の不幸、偏見であったりする。 生き方のハウツーを声高に説くわけではない。でも多くの人の具体的な「ボート体験」を読み進むうちに、自分にとっての「ボートの外」が見えてくる。意外な悩み解決のヒントが潜んでいる魅力的な1冊だ。(栗原紀子)
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